1月定期講習会報告

『どうしてますか?どこまでしてますか?結核菌検査』
−耐性菌を中心に−

大阪市立大学医学部附属病院 中家 清隆


 去る1月25日,大阪府呼吸器・アレルギー医療センターの吉多 仁子先生を講師にお迎えして,『結核菌検査』をテーマに私たちの日ごろ疑問に思っている事を中心にとてもわかりやすくご講演いただきましたので以下に報告させて頂きます。


結核菌の特徴

■ 結核菌は長さ2〜4μmの桿菌。
■ 細胞壁に多量の脂質,ろう質を有しグラム染色では染まりにくい。
■ 抗酸性染色で抗酸性を有する1つ。
■ エンドトキシンを産生しない。
■ 飛沫核によりヒトからヒトへ感染しやすい。
■ 18〜20時間に1回分裂する遅発育菌。
■ ヒトに感染しやすいが,発症するのは一生のうち 5〜10%。


結核感染とは

 結核の感染とは,結核菌が宿主内に侵入・定着して増殖した場合をいい,病理学的には初期変化群の形成,免疫学的には感作Tリンパ球の増殖をもって認識することができる。結核菌は繊毛のない肺の末梢まで到達しないと感染が成立しないので,同じく空気感染する麻疹やインフルエンザに比べると感染は遙かに起こり難い。

結核菌の排菌量について

 @ 肺結核患者のなかには結核菌を全く出さない患者から,1日に200億個を超える菌を出す患者まで様々な患者がある。
 A 同じ患者でも排菌量は時間とともにかなり変動している。

 通常,喀痰中の結核菌数が7000個/ml以上あれば塗抹陽性になると言われている。
 (鏡検陽性時の菌量)±= 7000個/ml
 1+= 2〜40万個/ml
 2+= 数十万〜数百万個/ml
 3+= 1,000万個以上/ml


発病リスクについて

 鏡検で陽性:鏡検陰性・培養陽性 = 1 : 0.22


喀痰塗抹検査成績を左右させる要因は

 採痰の良否が影響するため,検査側は,Miller&Jonesの分類を使用し,喀痰品質管理を行う。
 喀痰融解剤を使用し,集菌塗沫を行うことで,チール・ネールゼン染色でも陽性率は,UPできる。


抗酸菌検査について

 塗抹検査 :直接法,集菌法
 培養検査 :小川培地,液体培地(MGIT培地等)
 遺伝子検査 :PCR法,MTD法
 菌種同定検査 :培養形態,生化学的性状,DDH法,PCR法,キャピリアTB
 感受性検査 :ブロスミックMTB法,MGIT法, 小川比率法


各種蛍光染色の染色像

 ローダミンオーラミン染色:橙色に染まり,菌体周囲にハレーションがみられる
 オーラミン染色     :黄色に染まり,菌体周囲にハレーションがみられる
 アクリステイン     :橙色に染まり,ハレーションが見られず,桿菌を確認できる


ガフキー号数と集菌塗抹表記



培養検査について

 固形培地   小川培地1%,2%,3%,ビット培地,Lowenstein-Jensen培地
 液体培地   MGITシステム,MB/BacTシステム,KRD培地

培養陽性検体で,小川培地と液体培地の培養陽性日数を比較すると,結核菌・非定型抗酸菌ともに平均で約10日速くなる。



MGIT培地と小川培地の結核菌培養陽性の比較

 培養陽性検体で,小川培地と液体培地(MGIT培地)で培養陽性日数を比較すると,結核菌・非定型抗酸菌ともに平均で約10日速くなる。
液体培地は,菌量の少ない検体からも陽性になり易い。


MGIT培地の陽性率が高い理由

 @ 培地への検体接種量は,小川培地100μml,MGIT培地500μmlである。
 A 結核菌の分裂時間が遅いため,小川培地での発育は遅いが,液体培地では,エンリッチメントな液体の中で充分な栄養供給を得るため,分裂が速くなり,培養陽性になるまでの時間が短縮される。
 B 前処理検体を直接接種する小川法と比較して,MGIT法ではバッファーの使用により,アルカリの影響が軽減される。


小川培地存続の意義

 @ 液体培養で生育の悪い抗酸菌の検出。
 A 抗酸菌混合感染例の見落とし防止。
 B 液体培地雑菌汚染時のレスキュー。
 C 菌量の把握が出来る。
 D 安価である。


キャピリアTBの特徴

 @ 特別の装置を必要としない。
 A 操作が極めて簡単であり,習熟を必要としない。
 B 迅速(15分)に結果が得られる。


キャピリアTBの問題点と対応

 MGIT陽性になった検体でも,結核菌の量が少ない(MPB64の産生量が少ない)場合は,ラインが出来ない。
⇒培養を継続し,MPB64の産生量を増やす。

 キャピリアTB陰性結核菌がある
⇒PB64非産生の結核菌群がある。塗沫で菌を確認しておく,PCR−TB,DNAプローブ法で確認する。

 雑菌によって,極薄いピンクのラインが出来る場合がある。
⇒MGIT陽性の場合は,塗沫で菌を確認する。


PCR検査(コバス アンプリコア マイコバクテリウム)

(方法)
 @ 標的DNAを加熱処理して2本鎖DNAを1本鎖に変性させる。
 A 62℃でビオチン化された2種類のオリゴヌクレオチドプライマーを標的DNAにハイブリダイズさせる(アニーリング)。Taq DNAポリメラーゼを加え72℃の温度下におくと,相対的なDNAが複製される(伸長)。反応液中に加えた4種類のデオキシリボヌクレチドリン酸(dNTP)を用い,DNAポリメライーゼによるプライマーからの伸展反応が起こりDNA鎖が合成される。
 B アビジンーペルオキシダーゼーコンジュゲート反応。
 C テトラメチルベンジジン(TMB)を基質とした発色反応後,測光(660nm)。

(長所)
・ 結核菌があるかどうかを検体から直接知ることができる。

(短所)
・ PCR陰性でも,培養法のほうが感度が高いので,後から結核菌培養陽性になる事がある。
・ すでに死んでいる菌でも,PCR陽性になるので,培養法で陰性になる事がある。


結核菌薬剤感受性試験

・ 新指針により1%小川培地を用いた比率法である。
・ PZAの基準となる感受性試験は確立されていない。
・ ピラジナミダーゼ活性を測定し,活性の消失した株をPZA耐性とする


小川比率法とブロスミックMTB−1法の比較

 @ 小川比率法とブロスミックMTB-1法は高い相関がえられた。 ブロスミックMTB-1法の判定保留域に小川比率法で,感受性と耐性の株が混在していた。 小川比率法は1濃度により,感受性と耐性を判定する。このため,ブロスミックMTB-1法判定保留域にある低濃度耐性と考えられるような株では,小川比率法では,感受性と判定される場合がある。

薬剤耐性結核の頻度



多剤耐性結核菌とは

 多剤耐性結核菌とは,抗結核薬の中で殺菌作用,滅菌作用の最も強いINHとRFPの両薬剤に同時に耐性の結核菌のことである。また,その菌に感染し発病している結核(multidrug resistant;MDR)患者のことを多剤耐性結核患者という。(WHO定義)

初回標準治療法

 @ INH + RFP + PZA +SM(EB) :2ヶ月
   INH + RFP + (EB) :4ヶ月

 A INH + RFP + SM(EB) :6ヶ月
   INH + RFP :3〜6ヶ月

 B INH + RFP :6〜9ヶ月


結核菌検査結果について

  結核の治療効果は,菌側要因と宿主側要因とそこに介入する抗結核薬の作用によって決まるものであり,抗菌力のみによって決まるものではない。抗結核薬による化学療法は,結核アレルギ−によって生じた組織反応による病理学的変化を修復するのが主目的ではなく,病巣内の結核菌を極力死滅させ,残存生菌を可能な限りすくなくすることを目的とするしたがって,結核治療の効果判定は菌所見の動的が重要視され,胸部X線写真の所見は二次的とされている。


最後に

 今回のテーマは結核菌ということで,私たちのくらす地域には多府県に比べ,検出する可能性の高い菌であり,皆さんの施設でも色々疑問をお持ちになられていると思います。質疑応答でも色々なお話がでました。抗酸菌が複数菌検出された場合キャピリアTBのラインが薄くなることや,混合感染の場合非定型抗酸菌の増殖速度が速いため,混合感染を見つけ次第平板などに培養し,非定型抗酸菌の増殖が進む前に結核菌の分離をおこなう事。キャピリアTB陰性の結核菌がある事。薬剤感受性をどれくらいの期間あけて行えばよいのかなど,日常の抗酸菌検査に役立てることができたのではないでしょうか。各施設によって培地や方法は異なると思いますが,出来るだけ迅速に高い検出率で検査を行い,結核の早期発見,早期治療,二次感染の予防につながるように臨床に貢献し,臨床から頼られる検査室でありたいと思います。


---  ちょこっと遺伝子ライブ ---

パルスフィールドゲル電気泳動法とは?

パルスフィールドゲル電気泳動法は英語名の頭文字をとり,一般にPFGEと呼ばれています。検出された複数の細菌の遺伝子に違いがあるかを調べるために用いられます。

 細菌の染色体DNAを,制限酵素(特定の塩基配列を認識し,切断する酵素)で切断すると,幾つかの異なる長さのDNA断片に分かれます。比較する複数の細菌の遺伝子の塩基配列が同じであればすべて同じDNA断片が生じるため,その泳動像(泳動パターン)は同じになり,逆に塩基配列が異なれば異なる長さのDNA断片が生じるため,異なった泳動パターンを示します。細菌の染色体DNAから得られるDNA断片は長いため,通常の電気泳動では分離が困難で,特殊な電場の中で電気泳動を行う。

 解析した細菌どうしが同じ泳動パターンを示した場合は,疫学的に関連する可能性が高いことを示す。一方で泳動パターンが異なった場合は,疫学的に関連しない可能性が高いことを示す。

 しかし,同じ細菌でも,環境条件の変化,病原因子の脱落などにより遺伝子が変異欠損し,異なる泳動パターンをもつ菌に変化する場合がある。