〜シモンズのクエン酸塩培地と
クリステンゼンのクエン酸塩培地〜


済生会茨木病院  谷本 理香


【組成】

▼シモンズのクエン酸ナトリウム培地▲ 
培地1000mlあたり
・ クエン酸ナトリウム 2g
・ 硫酸マグネシウム 0.2g
・ 塩化ナトリウム 5g
・ リン酸2カリウム 1g
・ リン酸1アンモニウム 1g
・ ブロムチモールブルー(BTB) 0.024g
・ カンテン 15g
pH6.7±

▼クリステンゼンのクエン酸ナトリウム培地▲
培地1000mlあたり
・酵母エキス 0.5g
・ブドウ糖 0.2g
・クエン酸ナトリウム 3g
・塩化ナトリウム 5g
・チオ硫酸ナトリウム 0.08g
・塩酸システイン 0.1g
・クエン酸鉄アンモニウム 0.4g
・リン酸1カリウム 1g
・フェノールレッド 0.012g
・カンテン 15g
pH6.8±


【由来】

シモンズ
Simmons(1926)が,菌がクエン酸塩のみを唯一の炭素源として利用できるかどうかをみる培地として考えられた。

クリステンゼン
Christensen(1949)が,クエン酸塩利用性および硫化水素産生性によって大腸菌と他の腸内細菌との鑑別をみる培地として考えられた。


【目的】

シモンズ…腸内細菌,その他一般細菌のクエン酸塩利用試験
クリステンゼン…腸内細菌のクエン酸塩利用試験,硫化水素産生試験

 同じクエン酸塩の利用をみる培地なのに何が違うのでしょう?


【特徴】

シモンズ
 合成培地であり,炭素源としてクエン酸ナトリウムを,窒素源としてリン酸アンモニウムのみが加えられている。よってこの培地に発育できる菌はクエン酸ナトリウムとリン酸アンモニウムの両方を利用できる菌である。

クリステンゼン
 自然培地(酵母エキス入っているから)であり,炭素源としてクエン酸ナトリウムが加えている。菌が炭素源としてクエン酸ナトリウムを利用できるかみる。おもに,大腸菌と赤痢菌の鑑別に用いられる。この2菌種はシモンズには発育しないが,クリステンゼンはブドウ糖が少量添加されていることにより大腸菌の細胞膜透過性に変化が起こりクエン酸ナトリウムを利用できるようになる。しかし,赤痢菌はできない。特に生物活性の弱い大腸菌(E.coliのガス非産生,非運動性の生物型の中で,特定のO抗原をもつ一群のもの)と赤痢菌との鑑別によい。
 塩酸システイン,チオ硫酸ナトリウム,クエン酸鉄アンモニウムにより硫化水素産生菌は培地高層を黒変させる。しかし,腸内細菌の鑑別のためには鋭敏すぎるので硫化水素産生能の試験はTSI寒天培地がよい。

 よって違いは,シモンズは腸内細菌全般のクエン酸塩利用能をみる培地であるが,クリステンゼンは腸内細菌の中でも性状が酷似している大腸菌と赤痢菌の違いをみるために利用される。


【注意点】

シモンズ
 判定の際,色が変化していなくても菌の発育が認められものは陽性とする。

クリステンゼン
 かならずしもシモンズの成績と同じではない。


【参考までに】

細菌の栄養源
 外界(培地)から,これらの栄養素を取り込んで発育・増殖している
・ 無機塩類minerals…炭素(C),硫黄(S),リン(P)etc
・ 炭素源sources of carbon…糖類,クエン酸,酒石酸,リンゴ酸,アルコールetc
・ 窒素源sources of nitrogen…有機窒素化合物(アミノ酸,ペプトン,たんぱく質),無機窒素(アンモニウム塩)
・ 発育因子grows factor…ビタミンB1,B2,B6,B12,チアミン,ニコチン酸,パントテン酸,葉酸,ピリドキシンetc
・ 水water
・ 細菌の至適pHは多くは弱アルカリ性(pH7.0〜7.6)